日新聞6月28日朝刊掲載記事「抗うつ剤で自殺増加」によれば、パキシルの副作用が疑われる自殺者が平成17、18年度と2年連続で2桁に増えたと言う。精神科の一専門家として私見を述べたい。

実はこうした現象は、私の臨床経験からも十分に思い当たることだった。

ただし、それはパキシルの副作用に自殺があると断ずる性急な結論を意味するものではない。

むしろ、自殺の多くは医師の治療技術の拙劣さによるところが大きいのではないかと疑われるのである。

日、EBM(根拠に基づく医療)を標榜するうつ病(とパニック障害)の標準的な治療指針は、その第一選択薬にパキシルを代表とするSSRIをあげており、多くの医師に対するこうした指針の影響は小さくないことと思う。しかし、私はこれは誤りだと思う。

の臨床経験によれば、「前うつ状態」(ストレスにより、頭痛、頭重、肩こり、めまい、耳鳴り、不眠等が出現する)から相当程度のうつ病まで、よりマイルドな、抗うつ効果のある抗不安薬(種類は厳選)によって、ほとんどが改善するからである。(パニック障害にも、よく効く抗不安薬がある)弱い薬で効くものに強い薬を使うということは、当座は副作用、いずれは依存を惹起する可能性が高まる。

の場合、上記の薬で改善しない少数のケースにはドグマチール、さらにデプロメール、アモキサン等を使う。こうした選択の何番目かにパキシルもあり、それが奏功したケースもある。パキシル自体に問題があるかどうかはわからないが、多くの医師が節度を欠いた薬の多用によって、少なからぬ患者さんたちを苦しめ追いつめていることは、日常的に見聞きするところである。今回の事象はイアトロジェエニック(医原性)ならぬ、イシャトロジェニックとでも呼ぶべき問題の横行する、現在の精神医療界への大いなる警鐘とみなすべきではないだろうか(「茨城県医師会報」平成19年10月号掲載文を若干修正)。