この症例は、すんでのところで、医師の誤診を救いえたケースであるが、こんなケース、しかも最初の医師の診断どうりに、さらに先に行くといったケースも、少なくないのではないかと思われる。 先日、ご両親に付き添われて、私のクリニックを受診した患者さんも、そんな驚くべきケースであった。患者さんは約30歳の男性。高校卒業後、1年間オーストラリアに留学経験がある。その後、専門学校に1年間通った後、アルバイトを転々としていた。約5年前に対人関係の不安を訴えて、茨城県有数の精神科病院を受診したところ、統合失調症(破瓜型)と診断された。紹介状によれば、意欲低下、コミュニケーション能力低下があるが、陽性症状はないという。こうして、患者さんはその病院に通院するようになった。デイケア、心理カウンセリングも受けていた。(この間、入院2回)一方、抗精神病薬としては、エビリファイ24mgを主剤としていたが、最近、体重増加と糖尿病を発病したため、家族が不審に思って、転医騒ぎになったのだという。
さて、担当医は確かに当院初診時の約1カ月前に、エビリファイを中止している。その結果、処方は次のようになった。
1)タスモリン(1) 3錠、インプロメン(3) 3錠、アナフラニール(25) 3錠、
コントミン(25) 3錠、ソラナックス(0.4) 3錠
分3毎食後
2)インプロメン(3) 1錠、べゲタミンA 1錠、ハルシオン(0.25) 1錠、
コントミン(25) 1錠
分1就寝前
エビリファイは確かに、その致命的な副作用のために、他に使う薬がない場合を除いては、私は使わないようにしている。しかし、そもそもこの人は、こうした抗精神病薬をのみ続ける必要がある人なのだろうか。つまり、統合失調症という診断は正しいのであろうか。患者さんから病歴を聞いてみても、幻覚、妄想の体験はないと言っている。もちろん、まれには、そういうケースもなくはないが、そういう場合は、より慎重な吟味が要求される。私は一から前医の診断を疑ってかかることにした。
そこで、私の最初の処方は、上記の処方から、コントミン(25)を抜いたものである。初診1週間目に、インプロメンを分3のみ、6mgに減量。すると、翌日、1週間前から落ち着かない。ソワソワして、いても立ってもいられないという症状がみられた。そこでインプロメンを中止し、アキネトンをしっかりのむよう指示した。これは抗精神病薬インプロメンの副作用と思われる。初診2週間目には、本人も大分よくなったと言い、表情が出て来た。薬も2)のべゲタミンAとハルシオン(0.25)1錠ずつでよいと言うので、せめて、1)はソラナックス(0.4)3錠のみ残した。初診3週間目には、前より落ち着いてきた、本屋に行ったり、散歩したり、落ち込む気持はない、何かしたいという気持になってきたと言った。初診5週目には、ソラナックスをやめたと言い、べゲタミンAもやめたいと言うので、ベンザリン(10)で置き換えることにし、初診6週目で成功。以後、彼は仕事を探しながら、星新一の全作品を読破したり、芥川龍之介や太宰治を読んでいる。最近、ついにベンザリンは5mgになり、村上春樹、三島由紀夫にまで手を広げ、仕事も熱心に探している。もはや最初のころのように、デイケアを懐かしがることもない。
この担当医師については言葉もないが、どうすれば一つの青春の5年間を薬づけにしてしまうなどと言う、恐ろしいことができるのだろう。単に未熟、見識のなさで済まされる問題ではないだろう。
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