5分間のコント――「眠れるストーカー」(2)
12月 14th, 2008 by admin
場所 マンションの一室
人物 美穂
トオル
拓哉
中央にテーブル。
上手より美穂登場。
玄関のチャイムの音。その後も断続的に続く。
美穂 トオル! トオル!
トオル、上手より登場。
トオル どうしたんだい、そんな大声で……。
美穂 来たわよ、来たのよ。
トオル えっ?
美穂 今、窓からあいつの姿が見えたわ。間違いない。ほら、チャイムを押してるわ。
トオル よし、今日こそ決着をつけてやる。とにかく部屋に入れてやろう。
美穂 えっ、でも、どうするの、こわいわ。相手はストーカーなのよ。
トオル なに、ぼくに考えがあるんだ。ほら、これさ。(ポケットから小さな紙包みを取り出して見せる)
美穂 なに、それは?
トオル 一服盛ってやるんだ。
美穂 だめよ、そんなこと。殺人だけはやめて。
トオル 早まっちゃいけないよ。ぼくだってそれぐらいの分別はあるさ。これはパイアグラなんだ。
美穂 だめよ、バイアグラだなんて。火に油を注ぐようなものだわ。かえって余計にサカリがついて、私をしつこく追いかけまわすのがオチよ。
トオル いや、バイアグラじゃなくって、パイアグラだよ。
美穂 えっ、何なの、それは。
トオル 友人に医者がいるんだ。アメリカで最近極秘に開発された薬とかで、強力な女性化作用があるらしい。その友人の話では、手術なしの性転換が可能だという。
美穂 じゃあ、カタチまでも?
トオル いや、そこまでくわしいことは、ぼくもわからない。しかし、薬の効果は少くとも5年は持続するそうだから、たとえカタチが不完全でも、その間に本人から性転換手術を受けるんじゃないかっていうんだ。
美穂 大変な劇薬なのね。悪用されたら、とんでもないことになるわ。
トオル そう、でも、これは悪用じゃない。あいつ一人のおかげで君の安全と幸福、そして、われわれの幸福が脅かされているんだ。……それに、殺すことを考えれば、はるかに……。
美穂 ……。(この間もチャイムの音)
トオル さあ、もうグズグズしている暇はない。われわれのうるわしい未来のために、決行あるのみ!
美穂 わかったわ。
トオル よし、それじゃあ、奴を中に入れて、ぼくが対応している間に、美穂はコーヒーを三つ入れて、奴のコップの中にこの薬を入れるんだ。奴のカップは必ず奴の前に来るように。万一奴が他のカップを取ったら、われわれはもうコーヒーに手をつけてはいけない。そのときは改めて再挑戦すればいい。
美穂 いいわ。やってみる。この一瞬に私たちの幸福がかかっているんだわ。
美穂、上手に退場。トオル、下手に退場し、すぐに拓哉を伴って登場。
トオル あまり中に入ってもらいたくはなかったんだが、一度キッチリ話をつけておかないとね。……まあ、掛けたまえ。
二人、テーブルのイスに坐る。
拓哉 美穂さんは?
トオル 今、来ます。
拓哉 ああ、コーヒーのかぐわしいかおり……。
トオル で、君の名前は?
拓哉 あなたはトオルさんですね。美穂さんの名目上の婚約者。
トオル 失礼なことを言うな。われわれはもう、来月にも本当に結婚するんだ。
拓哉 そうですかね。しかし、あなたに美穂さんが本当に幸にしてやれますかね。
トオル なにぃ……。(気色ばむが、すぐに冷静さを取り戻して)まあ、いい。……で、君の名前は?
拓哉 拓哉。拓哉って呼んでください。すぐそこに引っ越してきたんです。
美穂、上手よりコーヒーカップをのせた盆を持って登場。着席して、無言でコーヒーを配る。
拓哉 美穂、久しぶりだね。会いたかったよ。今日は部屋の中に入れてくれるとは思わなかった。やっと、ぼくを理解してくれる気持になったんだね。約一名お邪魔虫がいるのが気に入らないけど……。
美穂 私、あなたからそんな言い方をされなければならない理由がわからないんですが……。でも、とにかくコーヒーをどうぞ。冷めますから……。
拓哉 あっ、そうそう、大事なことを言い忘れるところだった。今、そこのマンションの入口のところに転がっている猫の死体、お宅の猫じゃありませんか。
美穂 えっ、ポポちゃんが? 大変! どうしたら……。
トオル よし、ぼくが……、いや、一緒に行こう。ポポちゃんかどうか、ぼくには見分けがつかないかもしれないし……。
美穂 でも、こわい!
トオル 大丈夫。
美穂、トオル、下手より慌てて退場。
拓哉 (すご味のある声で)フフフ、きれいにハマりやがった。一服盛ろうなんて、あぶない、あぶない。(自分とトオルのカップを取り換える)
美穂、トオル、下手より登場。
トオル 何だ、猫の死骸だなんて、どこにもないじゃないか。
美穂 本当にあったんですか。
拓哉 えっ、おかしいなあ。確かにさっき見たんだけど。……だれかが片づけてしまったのかなあ。
上手奥でニャーオと猫の鳴き声。
美穂 あっ、ポポちゃんよ。(上手に退場し、すぐ戻って来る)大丈夫、ピンピンしてるわ。(着席)
トオル よかったね。
美穂 あれっ、コーヒーおきらいですか。冷めちゃったかな。
拓哉 いや、猫舌ですから。
全員コーヒーを飲む。間もなくトオル、胸を押さえてかがみ込む。すぐに落ちつくが、このとき両胸が大きくふくらんでいる。
トオル ムギュ! 練乳ビーム! タンスにゴンゴン、イザムンムン、だっちゅうーの!(パイレーツのセクシーポーズ)
美穂 まあ、トオル、どうしちゃったの。
トオル (美穂の方は見向きもしないで、あやしい目つきで)拓哉さんて筋肉質なのね。あのー……よろしかったら、私とおつき合いしてくださらない。私、いい仕事するわよ。(拓哉ににじり寄る)
拓哉 ちょっと、やめてくださいよ。
トオル いいじゃないの。ああ、もう我慢できない。
美穂 ちょっと、トオル、一体どうしちゃったの!
トオル ねえ、お願い、私をメチャメチャにして。(拓哉に抱きつく)
拓哉 ヒェーッ、助けてくれ! ストーカーだーっ!
拓哉、下手に逃げて退場。その後をトオル、さらに美穂が追って退場。当然、追われる人の名を連呼しつつ。